2025年10月24日 | コラム

親から家を相続した。
その家は古くからある戸建てで、土地も含めて「親の持ち家」だと思っていた。でも、地代を払っているとか、土地は借りているとか言っていたような気もする。でも、親からしっかり話を聞いておらず、実際のところどうなのかよく分からない。
実は、「相続した家が借地権付きだったことを知らなかった」というケースは、珍しくありません。
「そもそも借地権付きってどういう意味?」
「土地は他人のものでも、自分の家って売れるの?」
「地主に何か手続きをしないといけないの?」
「このまま住み続けるのがいいのか?それとも売却した方がいいのか?」
きっと、頭の中にさまざまな疑問や不安が浮かんでいるはずです。
不動産用語で、このように他人の土地を借りて建物を所有する権利を「借地権」と呼びます。
まずは相続した建物が借地権付きなのかをきちんと確認し、相続して所有し続けるのがいいか、売却するのがよいかを判断できるように、借地権付き建物の特徴について理解することが大切です。
この記事を読むことで次のことが分かります。
次の4つの資料を確認することで、相続した家が「借地権付き」かどうかを判断できます。1項目ずつチェックをしながら確認していきましょう。
借地権付きかどうか分からない・確信がもてない場合は、法務局で登記事項証明書を取得して、次の2点を確認してください。
□ 建物の名義が「被相続人」または「相続人」になっている
□ 土地の名義が他人(地主)になっている
この2つにチェックが付いた場合、建物と土地の名義が別になっているため「借地権付き建物」である可能性が高いです。ただし、借地契約の有無や内容までは判断できず、あくまで名義が別であることまでしか分かりません。
※相続登記をまだしていない場合は、名義は被相続人のままになっています。
※2024年4月1日から、相続の開始および不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記(名義変更)の申請を行うことが義務化されています。早めの対応を心がけましょう。
登記簿で土地の名義が他人になっていたら、次に確認すべきは借地契約書です。契約書は専門的な内容で分かりにくい部分もあるかもしれませんが、借地人として重要なのは、日常生活に関わる以下の4点です。
□ 契約期間
□ 更新料の有無や金額などの更新条件
□ 地代の金額と支払い方法
□ 建て替え・増改築・譲渡の承諾の必要性と承諾料
この4項目を確認すれば、地主との関係性や将来的な制約の程度をおおまかに把握できます。
※契約書が見つからない場合でも、親の通帳に「地代」「賃料」などの入金記録があれば、借地契約が存在していた可能性が高いです。
地代の入金や支払い状況も重要な確認ポイントです。契約通りに支払いが行われていたか、滞納がなかったかを確認しておきましょう。
□ 地代の入金履歴があるか
□ 支払い頻度(毎月・半年・年払いなど)はどうか
□ 滞納や支払い遅延はなかったか
万が一、入金が長期間途絶えて滞納がある場合は、地主側が不安を感じている可能性もあるため、早めに連絡を取るのが望ましいです。住む場合でも売却する場合でも地主との関係性は大切で、良好な関係を築いておくに越したことはありません。
建物を所有していれば、毎年「固定資産税・都市計画税」の納付通知書が届きます。この通知書で、対象が「建物のみ」であるかを確認しましょう。
□ 固定資産税の対象が「建物のみ」になっているか
□ 土地分の税金は課されていないか
土地の固定資産税通知が届いていない場合、土地は地主の所有である可能性が高いです。
この4つの書類や資料を確認すれば、相続した家が「借地権付き建物」かどうか判断できます。
相続した家が「借地権付き建物」だった場合、まずはその基本的な特徴を理解しておくことが大切です。ここでは、知っておきたい主な特徴を整理しておきます。
借地権付き建物は、地主の土地を借りて建物を所有している状態です。建物の所有者(借地人)は、地主に地代を支払うことで、その土地を使用する権利を得ています。そのため、建物は自分の資産ですが、土地は自由に使うことはできません。
土地の所有者ではないため、毎月または年ごとに地主に地代を支払う義務があります。
地代の金額は契約によって決まりますが、周辺の地価や契約時期によって差が出ます。古い契約では非常に安い地代のまま据え置かれているケースもありますが、更新時に値上げを求められることもあります。
借地契約には「期間」が定められています。
旧借地法の契約では、期間の定めがある場合、堅固な建物(鉄筋コンクリート造など)で30年以上、非堅固な建物(木造など)で20年以上となります。更新後の存続期間も同様です。期間の定めがない場合、堅固な建物で60年、非堅固な建物で30年、更新後の存続期間は堅固な建物で30年、非堅固な建物で20年となります。
借地借家法(新法)では普通借地権と定期借地権かによって異なります。
普通借地権では、建物の構造による違いはなくなり、期間の定めがない場合は30年となります。更新後は初回が20年、2回目以降は10年となります。定期借地権は契約の更新がなく、期間満了後、原則として更地にして土地を地主に返還します。一般定期借地権では50年以上となります。
更新時には地主の承諾が必要で、更新料が発生するケースもあります。契約書に明記されている期間と更新条件は、今後の住み方や売却を考えるうえで非常に重要な情報です。
建物を建て替えたり、増改築を行う場合は、地主の承諾が必要になります。無断で行うと契約違反になる可能性があります。また、借地契約の慣習で承諾料が発生するケースがほとんどです。承諾料は地主との話し合いで決まります。まず地主に相談することが前提になります。
建物を売却する際も、借地権ごと譲渡する形になります。このとき、地主の承諾がなければ売買契約が成立しないことが多く、承諾料が発生するケースもあります。また、地主が「自分が買い取りたい」と申し出る(優先交渉権を行使する)場合もあります。
借地権付き建物は、契約時期・地主との関係性によって条件が千差万別です。地代の金額や更新料、承諾料の有無、契約期間などに明確な相場はなく、個別事情に左右されます。そのため、契約内容をきちんと把握しておくことが、今後の判断の前提になります。
「借地権付き」と聞くと、制約が多くマイナスなイメージを持つ方も少なくありません。しかし、必ずしも不利な面ばかりではなく、所有を続けることで得られるメリットも存在します。ここでは、代表的な2つのメリットを整理してみましょう。
相続した家を所有し続ける場合、固定資産税や都市計画税は「建物部分」のみが課税対象になります。土地を所有していないため、毎年の税負担が軽くなる点はメリットです。
借地借家法によって、借地人の権利が強く保護されています。地主が一方的に契約を解除したり、正当な理由なく立ち退きを求めることはできません。契約を更新し続けることで、長期間にわたって安定して住み続けることができます。
多くの借地契約は数十年単位で続いており、親の代から二代、三代と住み続けているケースも珍しくありません。安定して暮らせる家としての安心感は大きなメリットです。
相続した家に住むこともできますが、借地権付き建物には、土地を所有していないからこそ生じる制約やリスクもあります。長期的な視点で見たとき、次のような点には注意が必要です。
借地人は地主に対して、地代を支払う義務があります。また、契約更新のタイミングでは「更新料」が発生することもあります。また、古い契約では地代が長年改定されておらず、地主から「相場に合わせて値上げしたい」と申し出がある可能性があります。
契約に増改築禁止特約がある場合、建物の建て替えや増改築には地主の承諾が必要です。事前の許可なく建て替えや増改築を行うと契約違反となり、最悪、借地契約の解除につながる可能性があります。また、承諾を得るには通常、承諾料が必要となります。
なお、契約書に増改築禁止特約が記載されていない場合でも、地主から借りている土地のためトラブル回避の観点から事前に相談した方が良いでしょう。
借地権付き建物を売却する場合、建物は自分の所有でも土地は地主が所有しているため、借地権の譲渡には原則として地主の承諾が必要です。この際、借地権譲渡承諾書を取得することが重要です。また、承諾を得るために、譲渡承諾料を支払うのが一般的です。
地主が不当に承諾を拒否する場合は、借地権の譲渡許可を裁判所に申し立てることになります。
地主から売却の承諾を得られても、「土地を自由に利用できない」、「建物の建て替えや増改築に地主の承諾が必要」などの制約があること、金融機関によっては住宅ローンの審査が通りにくいことがあるため、買い手が見つかりにくい傾向があります。
相続した借地権付き建物で定期借地権の場合は、更新はできず、契約期間満了となったら、原則、建物を解体して更地にして地主に返還する必要があります。相続人が住む選択をする場合でも借地契約の残存期間を確認することが大切です。
借地契約は長期にわたるため、地主との人間関係が生活の安心感に影響します。親の代で良好な関係を築いていたとしても、相続によって地主が代替わりすると、地代や契約条件の見直しを求められたり、態度が変わることもあります。
一方で、借地人に地代の支払い遅延や連絡不足があると、地主からの信頼を失って、更新や建て替えの際などに協力が得られなくなるおそれもあります。
実家から遠方に生活の拠点があったり、既に持ち家がある場合は、相続した家に地代を払い続けて住み続けるよりも、売却して整理したいと考える方が多いでしょう。しかし、先ほど記載したとおり、通常の一戸建てとは違って売却のハードルは高くなります。
そのため、現実的な選択肢を考えて売却をしないとなかなか売却できない可能性があります。
不動産会社に依頼して、一般の買主を探す方法です。
しかし、借地権付き建物の場合、土地の所有権がないため、「自由に使えない不動産」として敬遠されるケースが多く、スムーズに売却できることはほとんどありません。仲介での売却は現実的には難しいと言えます。
地主に借地権を買い取ってもらう方法です。
借地人とてしては第三者の買主を探す必要がなく、また、第三者の場合に必要になる地主への譲渡承諾料も必要ありません。地主としても借地権を買い取ることで土地を完全所有できるので、土地の資産価値を高めることができます。この方法はお互いにとってメリットがあるので合理的な解決策になるケースが多いです。
この方法では、建物付きで売却するか、建物を解体して更地にして売却するかになります。前者の場合は建物の評価が割れて交渉に時間がかかることがあり、後者の場合は借地人が解体費用を負担する必要があります。
もっともスムーズで現実的な選択肢が、不動産会社による直接買取です。借地権や底地の取引に精通した不動産会社であれば、地主との交渉や承諾料の取り決めなど、複雑な手続きを一括で対応してくれます。
不動産会社による買取の場合は買取再販を前提としているケースが多いため、市場価格よりも低い価格での売却になるのが一般的です。しかし、確実に売却できる、売却までのスピードが早い、内覧対応が不要、契約不適合責任が免責されるなどのメリットがあります。
相続した家をこのまま所有し続けるか、それとも売却するか。迷ったときは、次の質問に順番に答えてみてください。判断の仕方はこの限りではありませんが、一つの判断の考え方として活用してください。
Q1. 地主との関係は良好ですか?(相談ややり取りがしやすい関係ですか?)
YES → Q2へ
NO → 売却を検討しましょう
(人間関係が悪化すると、更新や建て替えの際にトラブルになる可能性があります)
Q2. 地代・更新料などの負担に無理はありませんか?
YES → Q3へ
NO → 売却を検討しましょう
(固定的な支払いが続くため、将来的な負担を考慮しましょう)
Q3. 建物の老朽化に対応できそうですか?(建て替え・大規模リフォームなど)
YES → Q4へ
NO → 売却を検討しましょう
(地主の承諾が必要な場合、費用や手続きが負担になることがあります)
Q4. 将来、子どもや家族にこの家を相続させたいと思えますか?
YES → 所有を続けても構いません
(ただし契約更新時期や条件を必ず確認し、今後の見通しを立てておきましょう)
NO → 売却を検討しましょう
(次の世代が同じ悩みを抱えないように、今のうちに整理しておくのも有効です)
1つでも「NO」が当てはまる場合は、売却を前向きに検討するサインです。反対に、地代や制約、関係性に問題がなく、長く住み続けたいと思えるなら、所有を継続しても問題ありません。
親から相続した家が、実は「借地権付き」だった。
「土地は地主の名義で、家は自分の名義」という状況は複雑に思えますが、整理して考えると次のようなポイントが見えてきます。
つまり、借地権付きの建物は「今すぐ困るわけではないけれど、将来に向けた判断が必要な不動産」です。
この記事で紹介したフローチャートをもとに、
を整理してみてください。
1つでも「NO」があった方は、売却を含めた選択肢を検討しておくと安心です。
借地権付き建物は、一般の住宅よりも取引が複雑ですが、借地や底地に詳しい不動産会社に相談すれば、承諾交渉や売却手続きをスムーズに進めることができます。
「とりあえずこのままでいいか」と放置してしまうと、契約更新や建て替え、相続のタイミングで慌てることになりかねません。早めに現状を整理して、今後どうしたいのかを明確にすることが、最もリスクを減らす第一歩です。
当社でも、借地権付き建物の買取や整理のご相談を承っています。「相続した家が借地権付きかどうか分からない」という段階でも構いません。登記内容の確認からご説明しますので、まずはお気軽にご相談ください。