2024年10月15日 | コラム
2024年9月24日夜、東京都墨田区と港区の一部で水道水から「シンナーの臭いがする」「油の臭いがする」といった異臭騒ぎが発生し、水が飲めなくなったニュースを見ましたか?
ニュースをご覧になっていない方は、こちらからご確認ください。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900008954.html
https://www.fnn.jp/articles/-/763747
ニュースの記事を読んでいただくと分かりますが、墨田区と港区の異臭騒ぎの共通点は、「浄水場から水が供給されるエリアの末端=水道管の行き止まり」でした。東京都では複数の配水エリアに分けて水道水が供給されています。配水エリアの末端には、バルブが設置されており、他のエリアへの水が流れないようになっています(多くの市町村では配水エリアは複数に分割されています)。
この行き止まりとなった場所には、水が滞留することがあります。水が長期間滞留すると腐ってしまいます(業界では死に水と呼びます)。そのため、水道局の方で定期的に滞留した水を排水することになっています。しかし、東京都水道局が定期的な排水をしていなかったことから、異臭騒ぎが発生してしまったのです。
今回は水道局が管理している水道管で発生した話なので、「水道局しっかり管理してよ!」と思った人がほとんどだと思います。しかし、この死に水、水道局が管理する水道管だけの話ではありません。戸建て住宅の場合、死に水ができる可能性があります!
どういうことか説明していきます。
この話は水道の仕組みを知っておいた方が理解しやすいと思うので、水道の仕組みから説明します。
毎日当たり前のように使っている水ですが、意外と仕組みは知らないという人は多いのではないでしょうか?
ざっくり各家庭まで水道水が届く仕組みを説明します。
まず、森林や水源地に降り注いだ雨や雪が、地表を流れたり地下にしみこんだりしながら川に流れていき、ダムや湖にたまります。貯められた水は取水設備から取り入れられ、導水管を通って浄水場に運ばれます。浄水場で水を浄化して水道水が作られます。水道水は、一旦配水池で貯められます。その先は、配水管を通って各家庭に供給されます。ここまでは、そこまで詳しく知らなくても大丈夫です。
配水池から先の部分をもう少し詳しく説明すると、配水本管(水道本管)と呼ばれる太い管を通って、配水エリアに供給されます。この配水本管から、さらに細い配水管が網目状に枝分かれして配水エリア内の津々浦々まで供給されます。配水管は道路に埋設されていますが、まさに道路と同じイメージですね。
各住戸は、給水管を通じて配水管から水を引き込みます。引き込んだ水は、各住戸の屋内配管を通じてキッチンやトイレ、お風呂場などの蛇口に送られます。
戸建てだと、配管は建物の床下や壁内などを通って、キッチンやお風呂などの床下から配管が立ち上がって蛇口や器具に接続されます。最後は低い方から高い方へ水が行って蛇口から水が出ますが、これは配水管の内部に一定の水圧がかかっているからです。
都市圏では浄水場からポンプで圧力をかけて水を送る加圧ポンプ式、高低差が利用できる地域は高台に配水池を作って重力の作用で水を流す自然流下方式により、水圧がかかっています。
この水圧があることで、蛇口をひねると水が勢いよく出るということです。
ここまでで、水道水が戸建て住宅にどのように供給されているか、その基本的な仕組みが分かったと思います。次に、「死に水」とは何かを説明します。
先ほど、死に水とは、長時間水が滞留することで水が腐ってしまうことだと書きました。
水道水はなぜ飲めるかというと、浄水場で病原菌などを殺菌するために塩素消毒が行われているからです。塩素が水中にいる微生物の繁殖を抑え、水が腐るのを防いでいるのです。ただし、塩素は時間が経つにつれて揮発して効果が薄れていきます。
そのため、水道水でも水が流れずに、長時間滞留していると微生物が繁殖しやすくなってしまいます。微生物が繁殖すると水は濁って悪臭を放ち、最終的には腐ってしまいます。
戸建て住宅の屋内配管の中で、水が流れず長時間滞留する場所ができると死に水が発生することになります。でも、「長時間滞留することなんてあるのか?」「具体的にどのような場合なのか?」気になると思いますので、説明していきます。
冒頭の東京都の異臭騒ぎを思い出してください。キーワードは、「水道管の行き止まり」でした。通常、新築時に配管に行き止まりがあることは考えられません。しかし、配管から水漏れがあって修理をすると、修理の仕方によっては行き止まりができてしまうことがあります。
たとえば、お風呂への配管の途中で水漏れが発生したとします。水漏れを起こした部分をそのまま新しい配管に交換できれば良いですが、配管が通っている場所によっては交換が難しい場合があります。そこで、水漏れ箇所の手間で配管にキャップをして止水し、新たにキッチンへの配管の途中から分岐させて、お風呂へ配管するとします。
このような配管修理の仕方をすると、元のお風呂への配管でキャップをした部分で「行き止まり」ができてしまいます。その結果、水が長時間滞留して死に水が発生することになります。
先ほど、屋内配管には一定の水圧がかかっていると書きました。そのため、上図の紫の部分で死に水が発生しても水圧で戻ってこなければ、配管を通っている綺麗な水に混ざらず、影響がないのではないか?と思う方もいるかもしれません。
実は、使用量や時間帯によって水道本管の水圧は変わります。水道本管の水圧が低下すると、給水管から引き込んだ屋内配管の水圧も低下します。そうすると、死に水の一部がわずかに戻って他の配管に混ざってしまい、水から異臭がしたり、誤って飲んでしまうと下痢や嘔吐などの健康被害を引き起こす可能性があります。
水漏れで配管を修理する場合は、行き止まりができないように注意する必要があります。水漏れが発生した箇所や配管の経路、建物の基礎の構造などにより、修理の方法は変わってきますが、行き止まりを作らずに修理することは可能です。
業者を選ぶときには、修理費用も大切だと思いますが、配管に行き止まりができない方法で修理してもらえるか、しっかり確認することが重要です。
家を長期間不在にして水を使わない場合、ある意味蛇口部分で行き止まりになっているのと同じことになります。たとえば、旅行や長期の出張で数週間不在にする、入院などで数ヶ月不在にする、といった場合は、死に水になる可能性が高いです。
水が長期間滞留することで塩素が揮発して効果が薄れて腐ってしまうと何度かお伝えしていますが、長期間とはどのくらいかと言うと、これは使用している配管の材質や水温などによって変わってきます。数ヶ月以上でも問題ない場合もありますし、数日から数週間でも危険なこともあります。
水道局によっては3日以上留守にしたときの最初の水は、水道管内に長時間滞留していて、赤水が発生したり塩素が少なくなっていることがあるため、季節によるが使い始めはバケツ一杯程度(約10リットル)の水を、掃除や洗濯、トイレなど飲み水以外で使用することを勧めていますので、参考にされると良いと思います。
東京都の異臭騒ぎのニュースから、あまり馴染みがないであろう「死に水」についてお伝えしてきました。
日本では蛇口をひねれば、安心して水道の水を飲めます。これが当たり前のことすぎて、水道から腐った水が出るかもしれないなんて思ったことがない人が多いのではないかと思います。ましてやそれが、自分の家の中の配管で起こり得るというのは、なおさら思ってもみないでしょう。
戸建てに住んでいて配管から水漏れすることは、決して珍しいことではありません。長年住んでいると、配管も経年劣化して水漏れするリスクが高くなります。地震による衝撃で配管が損傷して水漏れするリスクもあります。
もし配管から水漏れした場合は、行き止まりで死に水ができないように業者に修理をしてもらうことで、安心して水を飲んだり使ったりできるようにしましょう。本記事が参考になればうれしいです。