所有者責任が問われることもある?老朽化した擁壁の危険性

2025年11月10日 |  コラム

2025年9月30日夜、東京都杉並区の木造2階建ての住宅が全壊しました。原因は、住宅を支えていた擁壁(ようへき)の崩壊です。住宅は隣接するマンション側に倒れて、骨組みや壁、家財がマンションの敷地になだれ込んだということです(ニュース記事はこちらからお読みください)。

こちらの住宅は所有者に対して杉並区から文書や対面でたびたび擁壁の修復を指導していたものの、モルタル補修が何度か行われただけで、抜本的な対策は取られなかったそうです。周辺住民からも崩壊した擁壁は危険な場所として認識されていたといいます。

実は今、このニュースのような老朽化した危険な擁壁が全国で増えていることが社会問題となっており、本日のNHKの朝のニュースでも取り上げられていました。

老朽化した擁壁で怖いのは、万が一擁壁の崩落事故が起きた場合は、所有者が損害賠償責任を問われる可能性があることです。

「そういえば実家が高低差のある場所に建っているけど、擁壁って大丈夫なのかな?」
「親が亡くなったら相続する予定だけど、擁壁の補修にはお金がかかると聞いた…」
「相続しても住む予定はないけど、擁壁が古くても売却はスムーズにできるかな?」

もし、このような不安や疑問があるなら、最後までお読みください。

この記事を読むと、以下のことが分かります。

  • 擁壁が老朽化している土地がなぜ問題なのか
  • 相続や売却の場面でどんなトラブルが起きるのか
  • 「仲介では売れない物件」をどうすれば現実的に解決できるのか

擁壁とはなにか?

冒頭から「擁壁」と書いてきましたが、おそらく馴染みのない用語だと思うので、まず擁壁とはなにかについて説明します。

擁壁

擁壁とは、高低差のある土地で土砂が崩れるのを防ぐための構造物になります。たとえば、坂道の途中に建っている家や、道路より高い場所に建つ住宅の下にある厚いコンクリートの壁です。建物の基礎の一部と思っているかもしれませんが、土地を支えるための構造物で建物の基礎とは別の役割になります。

そのため、一定の基準(高さ2m超など)を満たすものは、建築基準法や宅地造成等規制法などの法令に基づいた設計・施工が必要になります。なお、擁壁の一種に土留め(どどめ)と呼ばれる簡素な作りのものもあります。

なぜ今、危険な兆候を示す擁壁が増えているのか?

背景にあるのは、1970年代の高度経済成長期の宅地造成ラッシュです。住宅需要が急増し、平地が不足したため丘陵地の宅地開発が進み、高低差のある丘陵地の宅地では擁壁が必要となりました。

耐用年数や設計基準の問題

コンクリート擁壁の寿命は30~50年程度のため、高度経済成長期に造られた擁壁はその後やり直しをしていなければ、耐用年数を超えて50年以上経過しているものも多くあります

擁壁は時間の経過とともに劣化していきます。たとえば、「中の鉄筋が錆びて膨張したり、地盤の圧力に耐えられなくなってコンクリートにひび割れや亀裂が入る」、「土の圧力で擁壁が押されて傾いたり膨らむ」といったことが起こります。壁厚が薄かったり鉄筋が少ないなどの施工不良があると劣化が早く進みます。

また、高度経済成長期の設計基準や耐震基準は現在と比べると緩かったため、現在の基準を満たさない(既存不適格と言います)擁壁が多くあります。当時の緩い基準のまま、耐用年数を超えて老朽化が進んでいることになるため、危険な兆候を示す擁壁が多くなっているのです。

ゲリラ豪雨などの気象の問題

近年は、線状降水帯の発生などによる短時間で大量の雨が降るゲリラ豪雨の問題があります。

古い擁壁は排水口が少なく排水能力が低いものがあるため、大量の雨が短時間に降ると擁壁の内側に水が溜まり、想定以上の圧力がかかることになります。水圧がかかることで亀裂や膨らみの発生に繋がります。また、鉄筋が錆びやすい構造になっていることがあり、内部にしみ込んだ水で鉄筋が錆びて膨張することでひび割れに繋がることがあります。

こうしたダメージが繰り返されることで、外見では分からなくても擁壁の内部は劣化が進み、強度が少しずつ失われていきます。

実家が擁壁の上にあるかも?確認すべきポイント

「うちの実家は建物が古いから擁壁も古いかも…大丈夫かな」と思った方もいるのではないでしょうか。普段生活している分には、擁壁のことを気にしたことがない人が多いと思います。しかし、いざ相続や売却の場面になると、「安全性の証明」や「補修費用」が大きな壁になることがあります。

擁壁の状態を目視でチェックする

まず確認したいのが擁壁の状態です。築年数が古い住宅の場合、造成時に造られた擁壁がそのまま使われているケースが多く、現行の安全基準を満たしていない可能性があります。

特に次のような兆候が見られる場合は、老朽化が進んでいるサインです。

  • コンクリート表面に大きなひび割れがある
  • 擁壁が外側にふくらんでいる、または傾いている
  • 雨のあとに壁の下から水が染み出している
  • 排水口(パイプ)から水が出ない・詰まっている

こうした症状がある擁壁は、内部で鉄筋が腐食しているなど老朽化が進んでいる可能性があります。表面をモルタルなどで補修しても根本的な改善にはならず、放置すれば小さな崩れが引き金となり、大きな崩壊につながるおそれもあります。

「宅地造成等規制法区域」か確認する

次に、法的な位置づけを確認しましょう。擁壁があるエリアの多くは、自治体によって「宅地造成等規制法区域」に指定されています。この区域内では、擁壁の新設や改修を行うときに行政の許可が必要となります。

確認方法は簡単です。お住まいの市区町村の「建築指導課」や「開発審査課」に住所を伝えれば、該当区域かどうかを確認できます。

また、建築確認済証・検査済証・造成時の設計図面などが残っていれば、安全性を判断する上で貴重な資料になります。一方で、こうした書類が見つからない場合や施工時期が古い場合は、住宅ローン審査や売却時に買主から敬遠される要因になることもあります。

擁壁の状態は、見た目だけで判断するのは難しく、専門家による確認が必要です。しかし、上記のように外観上の明らかな異変(ひび割れ・膨らみなど)や法的区域、書類の有無を把握しておくことが大切です。もし、築年数が古く擁壁も造成時のままであれば、相続前の今のうちに建築士や専門の工事会社、不動産会社に相談しておくことが安心につながります。

相続を念頭に考えておきたいリスク・デメリット

古い家を相続する場合、どうしても建物の老朽化に目が行きがちになり、擁壁の老朽化は見落とされやすいです。ぱっと見はしっかりしているように見えても、実は問題を抱えていることがあるため注意が必要です。

1.擁壁崩壊による損害賠償リスク

なんと言っても、擁壁崩壊時の所有者責任が一番大きな問題です。

民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)に基づき、擁壁が崩壊して他人に被害を与えた場合、まず占有者(賃貸している場合の借り主など)が責任を負い、占有者が損害を防止するのに必要な注意を怠らなかったときは、所有者が無過失責任(落ち度がなくても負う責任)を負うと定められています。

つまり、実家を相続した相続人が被相続人から擁壁についてなにも聞いていなかったとしても、「老朽化している事実を知っていた・知らなかった」にかかわらず、不動産の所有者である相続人が最終的な責任を負うことになります。

確認すべきポイントでも記載しましたが、見た目だけでの判断は難しいため、相続する場合は専門の業者に確認してもらうと安心です。

2.補修・再造成に高額な費用がかかる

「業者の調査で擁壁に問題があった」、「明らかにひび割れ入っているのが自分でも確認できた」などの理由で、擁壁を補修したり再造成する場合は高額な費用が問題になります。

立地条件や工法などさまざまな要因で費用が変わり、正確な費用は見積りをしないと分からないので、ここではざっくりとした目安をお伝えします。

部分的な補修であれば数十万程度で収まることもあります。一方で、ひび割れや排水不良の程度によっては全面的に作り直す必要がある場合もあり、そうすると数百万円から場合によっては1000万円以上かかることもあります。

擁壁補修(部分補修):50〜150万円
擁壁の全面再造成(切土・盛土):500〜1000万円以上
解体・撤去+新設:1000万円を超えることもあり

※古い擁壁を再造成する際には現在の基準に合わせる必要があるため、費用が高額になりがちです。

擁壁の改修は「見た目」ではなく「構造物」としての安全性が問われるため、建築基準法・宅地造成等規制法に基づいた設計・施工が求められます。そのため、一般的なリフォーム工事のように安く済ませることはできません。

この費用負担が重くのしかかり、「相続したけど手をつけられず、放置してしまう」という人も少なくありません。

3.老朽化が原因で売却できない・買い手がつかない

そもそも住む予定がない人以外に、所有しているとリスクがあるし、きちんと補修や再造成しようにも費用負担が大きすぎるため、それなら売却しようと考える人もいると思います。しかし、擁壁が古い不動産は、仲介による売却が難しいケースが多いです。

金融機関は、担保評価の際に、現行の建築基準法や宅地造成等規制法に適合している擁壁であること(適法性)を重視します。特に、「検査済証」や「適合証明」が無い古い擁壁の場合、担保価値をゼロと判断されることがあり、買主が住宅ローンを組むことが非常に困難になります。

そのため、現金一括で買える人しか購入できないことになり、なかなか買い手がつかない状態になってしまいます。

売却したい場合はどんな選択肢があるか

仲介での売却は難しいとお伝えしましたが、それでも次のような場合は、相続前か相続後かを問わず、売却が現実的な選択肢となってきます。

  • どもが遠方に生活拠点を持っていて、相続しても住む予定がない
  • 住み替えを考えても、擁壁の補修費用が高額で現実的ではない
  • 老朽化が進み、将来的に安全性に不安がある

しかし、先ほど書いたとおり古い擁壁の場合、補修や再造成の費用負担が重くなります。かといって古い擁壁をそのままに売却しようとしても買い手が見つかる可能性は低いです。そのため、売却するにしてもどのように売却するかを検討する必要があります。

ここでは売却方法について、費用・リスク・安心感を比較しながら整理します。

擁壁の補修・再造成してから売却する

費用負担は大きいですが、擁壁を補修・再造成してから売却する方法です。

古い擁壁で現在の基準を満たしていない既存不適格な擁壁の場合、補修だけだと安全性を証明する検査済証や適合証明を取得できないため、代替として建築士などに現況報告書や診断書を作成してもらうことで買主に安心感を与えることが大切です。ただし、公的な証明ではないため、買主がローン審査で影響を受ける可能性があります。

一方、古い擁壁を撤去して再造成する場合は、建築基準法上の新築または大規模な改築に該当し、高さが2mを超える場合は建築確認申請が必要となり、工事完了後に公的な証明である検査済証を取得できます。そのため、買主はローン審査に影響なく、安心して購入できますが、補修と異なり多額の費用負担が発生します。

建物を解体して更地にしてから売却する

建物が築古の場合は、建物を解体して更地にしたうえで売るという方法もあります。

しかし、古い擁壁の上に新しく建物を建てる場合、造成時に確認済証や検査済証を取得しているか、その擁壁が現行の建築基準法などに適合していることを証明する必要があります。また新築する際の建築確認申請時に、自治体の建築主事または民間の指定確認検査機関が擁壁の安全性を判断することになります(詳しくは建築士さんに確認してください)。

もし、現行基準に適合しない既存不適格の古い擁壁の場合、原則としてそのままの状態で新しい建物を建てることはできません。買主は上述の擁壁の補修・再造成が必要となります。

建物が残っていると建築条件や用途が限られるため、更地にしたほうが買い手がつきやすくなることもありますが、現行の基準に適合している擁壁であっても煩雑な手続きが必要となり、適合していない擁壁の場合は多額の費用が必要になる可能性があることから、買主としては擁壁のない平坦な土地と比べると購入を慎重に判断しやすいと言えます。

不動産会社に買い取ってもらう

ここまでの2つの選択肢はどちらにしても、費用負担が大きな問題になります。補修や再造成、解体の費用を売却前にかけるのが難しい場合に現実的な方法は、擁壁や建物を含めてそのまま不動産会社に買取してもらうという選択です。

不動産会社による買取は、仲介のように買主を探すのではなく、不動産会社が直接買い取るため、早く・確実に現金化できるのが特徴です。

不動産会社は再販売を前提としているため、擁壁や建物の老朽化も織り込み済みで査定を行います。価格は仲介売却より下がることが多いものの、売却前の支出を抑えられるのは大きなメリットとなります。

まとめ

今回の杉並区での崩壊事故は、決して特殊なケースではありません。高度経済成長期に造成された住宅地の多くで、同じように老朽化した擁壁が今も住宅を支えています。

見た目には問題がなくても、内部では鉄筋が腐食していたり、排水が詰まっていたりと、長年の経年劣化によって崩壊リスクを抱えている可能性があります。

もし、そうした老朽化した擁壁のある土地や住宅を所有している場合、万が一崩壊事故が起きると、所有者が損害賠償責任を問われることがあります。老朽化が進んでいたにもかかわらず、適切な補修や点検を怠ったと見なされると、「自然災害だった」としても、責任を免れない場合があるのです。

相続したけれど遠方に住んでいて管理が難しい
補修費用が高額で現実的に住み続けるのは難しい
仲介での売却を試みたが、擁壁がネックで話が進まない

このような状況であれば、放置せずに売却を検討することが現実的な選択です。

仲介での売却が難しくても、不動産会社による買取なら、擁壁の老朽化や補修リスクを前提に査定してもらえるため、解体や補修を行う負担を抱えずに、早期の売却が可能です。

20古い擁壁のある土地や住宅の売却は、高く売るだけでなく、「安全に手放す」「責任を残さない」という視点で考えることが大切です。

当社では古い擁壁のある土地や建物の買取も行っています。どうしようかと悩んでいる間も老朽化が進んだ擁壁のリスクは大きくなっていきます。ご相談は無料ですので、まずは一度ご相談ください。

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